ガムリンが軍務で留守にして数ヶ月。
ミレーヌから悪い一報が入った。
「ガムリンさんが、帰還中に時空の狭間に飲まれた……って。」
「………。」
「ちょっと、聞いてる?バサラ?!!」
ブツッと電話を切る。
「嘘だろ………………。」
嫌な汗が滲んで来る。こんな気持ちになったのは2回目だった。
1回目はレイが瀕死の重傷を負った時だ。
居ても立ってもいられず、ギターを手に取ると歌う。
空に向かって思い切り歌った。帰って来いと祈るように。
何十時間そうしていただろうか。力尽きて眠ってしまっていた。
『ガムリン…!!』
『…ん?』
霞んだ上も下もない白い空間に浮かんでいた。
うっすらとガムリンが前方に見える。
『ガムリン!無事だったのか!!』
『無事?いや、どうだろう。』
『帰ってこいよ!絶対!!』
フッと笑うと消えて行くガムリン。
手を伸ばす。千切れるんじゃないかと思うくらい遠くへ。
「!!」
手を伸ばした状態で目が覚める。
ベッドに寝ている。
床に倒れた気もするが。
ギターがきちんと立てかけられていた。
「…………。」
どれくらい寝ていたのか。もしかしてガムリンが帰って来てるのでは
ないかと、ベッドを出て、電話のあるレイの部屋に向かう。
体が重い。
「起きたか。」
「…………。どれくらい寝てた?」
「2日だ。5日目の昼にぶっ倒れてそれからだ。」
「ガムリンは………?」
首を横に振るレイ。
「ひとまずこれ飲んで、風呂に入れ。飯はその後だ。」
渡された水を一気に飲む。空っぽの胃に入って行くのがわかる。
服を脱いでシャワーを浴びる。
「ガムリン………ッ。」
あいつが消えるなんて。
別の時空に飛ばされているだけでどこかには居るはずだ。
「バサラ、着替えは置いておくぞ。」
風呂の外からレイの声がする。
震える手を壁に突き立てた。必ず帰って来ると呟きながら。
タオルを被ったまま、ダイニングの席に着く。
「ほら、スープだ。」
「…………。」
「パン喰うか?固形物はキツいか。」
あたたかなスープに手が付けられなかった。
手がまだ震えている。
フゥとレイがため息をもらす。
「行って来い。」
「!」
「携帯食詰めといたから持って行け。」
レイが膨らんだ布バッグをテーブルに乗せた。
「行って来る!!」
「燃料は入れてある。あとマップはインプットしといた。
フォールドブースターは行きしか無い。」
「サンキュー!!」
バッグを引っ掴むと部屋を飛び出した。
バルキリーに飛び乗る。
マップを表示させて飛び立つ。
宇宙に出た所でフォールドブースターを発動させる。
「絶対見つけてやる!!」
ギターをかき鳴らす。
「オレの歌をきけーーーーーーーーー!!!!」
フォールドのGがかかる中、ものともせずに歌い続ける。
時空が歌に共鳴してるのかスパークし始める。
「AHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!」
シャウトした。バーンッとモニターが弾けた。
「……ーーザーーー……バサラ……か?ーーザザッーー」
スピーカーからガムリンの声がする。
「ガムリン!!!」
モニターは完全にホワイトアウトしていた。窓の外を見る。
夢で見た空間に似ていた。
「どこに居る?!ガムリン!!」
「上だ……ーーザーーーお前が見え………ーザーーーー。」
上を見上げる。黒い機体が見える。
横に並ぼうとエンジンを噴かす。が、なにも起こらない。
「クッソ!!」
「ーーザーーーー歌ってくれ。ーーザッーーお前の歌が聴きたい。」
「いいぜ!聴かせてやる!!!」
歌いながら色々試してみる。制御装置がイカレてしまったのか。
何も起こらなかった。
「ーーザーー空間が歪んでるのか。ーーザザーー。」
ガムリンの機体にはバサラの歌を検知するレーダーが積んだままだった。
「バサ…ラ…ーーザーーレーダーはお前のすぐ隣に…表示されてる…。」
「行くぜ!!アンコール!!!!!」
動かない機体にけりを付けて、歌に集中した。
ブゥウウウウウンとフォールドブースターが起動し始める。
ガムリンの機体に付いていたブースターも起動し始めた。
「……ーーザーお前と心中も……悪くないか。ーーザーーー。」
バカヤロウと言いたい所だが、シャウトしたい気持ちが勝った。
突き抜ける様なシャウトと共に、目の前が真っ白になる。
「はぁ、はぁ。ライブは終わりだぜ。」
真っ黒い空間に星がキラキラと輝いてる。
「出れたのか!?」
ガムリンが驚く。白い空間で歳も取らず永遠に漂流し続けるのかと
諦めかけていた所だった。バサラの歌が聞こえて、歌レーダーが反応した。
異空間でももしかしたら受信するんじゃないかとスイッチを入れて
いたのだった。
始動した指定している座標の違うフォールドブースターは共鳴し合い
スゴい光を放って力だけを残しガムリン達を時空の狭間の外へ
追い出すと時空の彼方に消えて行った。
「バサラ!!」
近くの星に着陸していた。
バサラはコクピットでぐったりしている。
「大丈夫か?!!」
非常コックを使ってウインドウを上げるガムリン。
飲まず食わず歌いまくったバサラはさすがに体力が尽きていた。
「……腹減った………。」
「は?腹か?ん?これは?」
コクピットの隙間に積まれたパンパンの布バッグをみつける。
中を開いてみるとジェル状の栄養補給食がたくさん入っていた。
一つ取り出しキャップを開けバサラの口に当てがう。
「吸えるか?」
「……………。」
意識も朦朧としてるのか、息をするのも辛そうにぐったりしている。
ガムリンは自分の口にジェル状の食事を含むとバサラに口づけた。
少しずつ流し込む。
ゴクンとバサラが飲み込む。
「……美味い………もっと。」
手が挙がらないのか、口だけをガムリンに寄せるようにして
食事をねだった。
「……。」
ガムリンは急に恥ずかしくなった。応急処置的な行為だと思っていたのだが
なにやら急に意識してしまった。
バサラの唇が熱く柔らかくその感触にドキドキしてしまっていた。
「口を開けろ、押し出してやるから。」
首をわずかに横に振るバサラ。
「な………ッ。」
慌てるガムリン。それを見てニヤッと笑うバサラ。
「わざとじゃないよな。そうやって動けないフリをしてるのか?!」
「……んな…わけ……ねーだろ……。」
体をガムリンの方へ寄せようと体を動かしたバサラだったが
ズルッと体が横にすべり、壁に頭をぶつけそうになる。
慌ててガムリンが頭と体を支える。
「動くな。あぶない。」
「ウソじゃ……ねー……だろ……?」
「わかった。今飲ませてやる。」
バサラを真っ直ぐ座らせると、また口に含み口づける。
ゴクンとバサラが飲み込んだそのとき。
「………ッ!!」
ガムリンの口の中にバサラが舌を入れて来た。
ガムリンは驚いて口を離す。
「な、なにをする!!」
「もっと……くれよ。」
真っ赤な顔で額に汗を浮かべ、バサラを見る。
ジッとバサラと目が合う。
先ほどは虚ろだった目がギラギラと力を取り戻していた。
「舌………入れるなよ。」
弱々しい声でガムリンが言う。
ニヤッと笑うバサラ。
口移しに5パック飲ませた所で、腹がいっぱいになったのか
バサラは眠っていた。
ガムリンは、まだドキドキしていた。
ふざけてやったのか?ジェルが欲しくてやったのか?
舌の感触が甦って来る。
股間に違和感を感じて、ハッとし首をぶんぶんと振ると
自分も腹が減っている事に気づき、自分のバルキリーのコクピットから
非常携帯食を取り出して一口かじった。
着陸した星には人は住んでいなかったが、軍の通信施設があった。
ガムリンは寝ているバサラを残し、なにかないかと軍の施設に向かった。
「くそッ。」
IDをかざしても扉は開かなかった。
バルキリーに戻り、軍に通信を入れようとしたが繋がらない。
アンテナはこんなにも近くにあるのに。
バサラのバルキリーの通信機は無事かもしれないので
バサラの元へと戻った。
バサラはまだ寝ていた。
日が落ちて寒い。バサラのバルキリーの空調のスイッチを入れると
通信機の様子を見る。
軍の通信電波に合わせると繋がった。
ひとまず、無事を伝える。それから救護を求める。
が、近くに戦艦や船団がおらず、救護に日数がかかるという。
ガムリンの捜索は、早々に打ち切られていた。
フォールドブースターの故障で時空の狭間に取り残された者の
捜索は、フォールドアウト先の空間をレーダーで調べ
見つからない場合は、殉職として捜索を打ち切る事になっていた。
通信部は、近くの軍の施設に連絡を入れておくので自力で行ってくれとの事だった。
この星の通信施設には何も無いらしく、行っても無駄だと言われ落胆する。
通信を切った。
バサラのモニタは壊れていたので自機に戻りマップを見ていた。
「近くの施設と言っても、距離がかなりある。参ったな。」
食料はあと2日分。燃料も少ない。フォールドブースターのない状態で移動するには
ギリギリだった。
バサラの体力も心配だ。明日回復するとは思えなかった。
ひとまず、ガムリンは仮眠を取る事にした。
平らな場所を見つけ、テントを張る。重力下でコクピットで眠ると
エコノミー症候群になる可能性があるので、寝る時は足を伸ばして
寝ろと教えられた。
抱え出せなくて難儀したがなんとかテントに運び込んだ。
火を焚こうとしたが、草しか生えておらず燃やす物がなかった。
危険な生物は居ないという事だったが、不安だし寒かったので
草を集めて燃してみたが煙がすごくて諦めた。
バルキリーをすぐ操縦出来るようにセッティングしてテントの側に
置き、バサラを寝袋に入れ、抱えるようにしてテントに入り眠った。
暖かさと窮屈さで目が覚める。
いつ、寝袋から出たのか、バサラに抱きしめられていた。
寝袋は腹と腰に掛かるように横に掛けられていた。
バサラの胸に埋もれる状態が苦しくて抜け出そうとするが
うまく行かない。
もう、起こしても仕方ないと思い、バサラの絡み付く腕を
掴むと剥がす。
「う……ん。」
起きたか?とバサラを見るとまだ寝ていた。
テントから出て、ひと伸びすると
腰に巻いていたパイロットスーツの袖を解き腕を通した。
「寒いんだけど。」
「?」
「寒いんだけど!!」
テントの中から声がする。
振り返ってテントを見ると入口から顔だけ出してるバサラが居た。
「起きたのか?」
「のど乾いた。」
「水か。。。待っていろ。」
バサラの持っていたバッグに水が何本か入っていた。
取りに行く。
1本手にすると後ろに気配を感じる。
振り返ろうとすると抱きしめられた。
「パイスー冷たい。」
「は?!」
さっき着たばかりのパイロットスーツを脱がそうとするバサラ。
「な、なにをする!!」
「おっと。」
バサラの手を止めようとしたら水のボトルを落としそうになる。
バサラがキャッチする。
「口移しする?」
「ば、馬鹿者!!!」
真っ赤になって声を張り上げるガムリン。
バサラはニヤニヤしている。
「もう、平気のようだなっ。」
「まぁ、60パーって所かな。」
「大部回復したじゃないか。」
「ああ。」
水をゴクゴクと飲むバサラ。
一気に1本空けてしまった。
「おい……もっと大事に飲め。」
「あ?」
今の状況を簡潔に話すガムリン。
ふ〜んと生返事をすると、コクピットからギターを取り出し
つま弾き始める。
「すぐ、移動するぞ。」
「そんな急がなくても大丈夫だぜ。」
「え?」
「オレ、ココへ来た事ある。」
「こんな遠くへか?!」
「フォールドブースターがあれば近いだろ。」
「…………。」
「半日飛んだ所にステーションがある。」
「え?!」
「列車は配線されたけど、駅は残ってる。」
「そうか!そこに行けばなんとかなりそうだな。」
「まぁ、のんびり行こうぜ。」
ジャララーンとギターを鳴らせると歌い始めるバサラ。
ガムリンはバルキリーの翼に腰かけると、バサラの歌を聴いた。
おわりでーす。
続きも書けそうだけど、ひとまずおわりでーす。
エッチしてません。。。おかしいなぁ。
そして、まだバサラの片想い中の話です。
旅の途中で関係を持つ事になったら自然でいいなぁと思ってます。
気が向いたら、続きを書きたいです。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございますた。
ちょこっと、書き直した所もあります。
バサラが女々しくならないように書き直しました。