まあいっか

鉄拳/ラス仁・花仁・真仁 呪術/五夏 主に思ったことを書く

バサガム。ホリデー

今日は休暇だ。

何日ぶりだろうか。

いや、何ヶ月ぶりかもしれない。。。

久しぶりにバサラに会いに行く。

さてと、と出かけようとしたときチャイムが鳴る。

「誰だ?」

インターフォンの画面を覗くとバサラが居る。

「車で待ってるぜ。」

そう言うと画面から消えた。

車?車庫で待つというのか???

謎の行動に、慌てて外へ出る。

庭先に、白の軽自動車が停まっている。

バサラが乗っていた。

「え…???」

いつもは助手席に乗っているバサラが今日は運転席にいる。

それだけではない、自分の車でやって来た。

どういうことだ???といつもと違うバサラの行動に戸惑う。

プップーっとクラクションが鳴る。

「なに突っ立ってんだよ、乗れよ。」

「珍しいな、お前が車なんて。」

「たまにゃいいだろ?」

「あ、ああ。」

「じゃ、ドライブといくか!」

へへっと鼻で笑うと、バサラがアクセルを踏む。

「どっか行きたいとこある?」

「え…いや、特にないが。」

会話が続かないが、バサラは上機嫌である。

なにかいい事でもあったんだろうか?

尋ねようとした所で、バサラが歌いだす。

すごい声量だ。鼻歌ではない、本気で歌ってる。

楽しそうに笑顔で。

Come on!!」

「え?!」

「Hey!Come on!!」

最初は慌てたが、知っている歌だ。歌える。

オレの音が外れてるのか、なんかハモっている。

バサラは「やるじゃねーか!」と言うと嬉しそうに

違う歌を歌いだす。知っている。歌えるぞ!

歌を何曲も歌いながら、ミルキーウェイを通り、他の艦船へと

移動する。

農業艦サニーフラワーへ。

「いい風だな…。」

一通り歌い終えると、窓を開けて肩肘をついて風を浴びているバサラ。

いつもは見えない額が見える。

きれいな顔をしているよな…。

見とれてしまう。

「ぶわっ!!」

見とれていたら、バサラが助手席の窓を全開にした。

スゴい勢いの風が顔面を襲う。

ははは、とバサラはイタズラっぽく笑う。

「あんまり風が強いとハゲが増すか?」

「!!」

そんなことでは抜けはしない!!と言ってやった。

バサラは爆笑している。

たまにハゲネタで責めて来るコイツは…。

腹が立つというよりも、もう、やれやれといった気持ち。

笑っているから、いいか。と思ってしまう。

「見ろよ。」

「ん?」

背の低い低木がずらっと並んでいる。

綺麗に揃った木には、黄色い実が成っている。

「木いちごか?」

「アレ美味いよな。」

車を止めて、降りる。

「お、おい!!」

柵を乗り越えるとバサラは木の実を手にした。

「勝手に食べたらダメだろう。」

「あ?こんだけあるんだ、1個か2個なんてこたねーだろ。」

美味い美味いと口にほおばっている。

「お前も食えよ。」

木の実が飛んでくる。柔らかいそれを優しくキャッチすると

申し訳ない気もするが、採ってしまった以上、捨てる訳にも行かず

口に放り込んだ。

甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。

「レイにも食わせてやるか。」

両手にいっぱい実を採ると、車にあったレジ袋に入れる。

「1個や2個じゃなかったのか…。」

呆れてると、上機嫌のバサラが腹減ったなと辺りを見回す。

これ以上、なにか盗む気なのか?!

「お!あっちに食い物屋がありそうだな。」

バサラの見ている方向を見てみる。

ログハウス風の建物の周りに幟が立っている。

幟の字は、遠過ぎて見えない。

「行くぞ。」

「あ、ああ。」

車で数分走ると、幟のある建物に着いた。

「木いちごパイか。」

幟にはそう書いてあった。カフェのようだ。

腹を空かせたバサラは、さっさと店の扉を開けて中に入る。

少し焦って後に続く。

「ちわー。誰もいないの?」

「………いらっしゃい。」

店の奥の暗闇から、一人の老人が現れる。

「腹減ったんだけど、なにか食べれる?」

「メニューは、テーブルにあるよ…。」

雰囲気が暗いご老人を全く気にせず席につきメニューを

見ているバサラ。

「お一人でやってらっしゃるんですか?」

「……………。」

「あ、いや、なんでもないです。」

変な質問をしてしまったのか、ご老人が増々暗くなる。

「お!いいのあるじゃん。おっさん、激辛パイくれよ。あとコーヒー。」

「…………。」

ご老人が私を見ている。

いかん、早くメニュー決めねば。

「私は、木いちごパイと紅茶を。」

すっと、奥に下がって行くご老人。

「ギター持ってくりゃよかったな。」

バサラは手持ち無沙汰なのか、店の中を見回してる。

何か楽器がある。ギターではない。

「お!」

それに気がついたバサラは手に取って弾き始める。

ぺよんぺよんと軽い音がする。

「ギターと変わんねーな。」

「お待ちどう…。」

パイと紅茶とコーヒーが運ばれてくる。

「おっさん、これアンタのか?」

「ああ、今じゃ店の飾りだがね…。」

ご老人は、楽器を構えるバサラを見ると遠い目をしている。

「オレ飯食うから、弾いてくんね?」

「お、おい、バサラ…。」

づけづけ行くバサラにヒヤヒヤする。

ふうっと溜息を付くと、ご老人はバサラから楽器を受け取り座ると

チューニングを直してぺろろーんと弾き始める。

軽い音と軽快なリズム。ご老人の暗さとは対照的だった。

「うめぇな。」

パイの事なのか、楽器の演奏の事なのか分からないが

バサラは感心していた。

コーヒーに付いていたティースプーンを手に取ると

コンコンとテーブルを叩きだす。

ご老人の演奏に合わせて、口笛も吹き始める。

微かにご老人の表情が和らいだ。

バサラは、ノリにノリ始め、足でもリズムを刻み始め

全身でご老人の演奏に応えている。

私もなにかしたいところだが、このいい雰囲気を壊したくは

ないので、体を揺する程度に二人のセッションにノル事にした。

しばらくセッションは続いた。バサラが全身汗まみれになって

冷めたコーヒーを一口飲んだ所で

パチパチパチと拍手が聴こえる。

「!!!」

ご老人が立ち上がる。

歳の若い女性と子供が二人手を叩いている。

「マリア…。」

「父さん。」

「おじいちゃん!」

「なぜ、ここに…。」

「あの人とは別れたわ。私、ここで暮らす!」

「僕たち、おじいちゃんのお手伝いするね!」

孫なのだろうか、女の子と男の子がご老人に駆け寄り

抱きつく。

「あ、お客さんなのかしら。今日は、記念日なので

 なにかサービスさせてください。」

「…じゃあ、紅茶をもう1杯。」

「レモネードくれ。」

咄嗟に飲み物を頼む。喉がカラカラだった。

「アンタ達、幸運を運んでくれたんじゃな。こんな事があるとは。」

ご老人が身の上話を始める。

3年前、妻を亡くしたご老人は独りになった。

毎年遊びに来てくれた孫達も、疎遠になっていた。

娘が再婚し、その夫が農業艦を嫌っていたからだ。

ご老人は、独りに耐えきれず店を畳んで農場も手放そうと考えていた。

そんな中、今日は、店の最終日だったのだ。

バサラ達が最後の客だった。

「じゃあ、また来るぜ。おっさんとのセッション最高だったぜ。」

「いつでも来るといい。あんたらは特別だ。」

そう言うとご老人は、私に連絡先の書いた紙を渡した。

「木いちごの採れない冬期間はお休みなんだけど、貴方達は特別なので

 なにか出しますから、遊びに来てくださいね。」

娘さんが言う。

「激辛パイの中身、シチューか?あれを腹一杯食べてぇな。」

「ふふっ、辛くないですか?母が振り切れた物があった方がいいだろうと

 振り切れた味に作ったんですけど。」

「オレにゃ丁度いいぜ。」

「では、ご連絡ください。お作りしてお待ちしていますから。」

「じゃあな!おっさん。」

バサラは窓から手を振る。私は振り返って会釈をすると

小さくなって行くご一家を見つめた。

「バンドのメンツも連れて行くかな。いい店だったぜ。」

「そうだな。」

窓の外は、夕焼けに染まっている。

遥か先まで続いている畑が赤く染まってキラキラと輝いている。

「綺麗だな…。」

チュッという音と共に、頬に柔らかい感触が。。。

「?!」

びっくりして振り向くと、バサラが素知らぬ顔で運転している。

「やったな…。」

キス仕返してやろうと顔を近づけるとバサラもこちらを向く。

チュッと唇が触れ合う。

「!」

「へへっ。」

誰もいない畑の一本道、がたがたと揺れる車内。

幸せってこういう事なのかと思った。

おわり

ラブホリデー聴きながら書いてみた。

ラブホリデー聴く機会があったらぜひ聴いてみてください。

可愛いですから。

追記

木いちごをバサラは盗んでたけど、後日、ご老人の所有物とわかり

ガムリンさんが謝ったのでした。

ご老人は、いくらでも採っていいよとお許しになったとか。

バサラはモノを盗んだりしない子ですよね。。。なんか勢い余って

書いてしまったけど、今になって違和感が。。。。。ごめんバサラ。。。。